Written by Nereus Fellow Kisei Tanaka,
漁業の対象となる種の生物地理学を理解することは、気候変動の下で、適切な資源量評価を行うのために重要である。このほどICES Journal of Marine Scenceに承認された田中氏らによる論文は、気候の影響を受ける商業漁業のアセスメントに環境要因を含めるきっかけとなっている。
近代アメリカ漁業資源の象徴とされるアメリカンロブスターは、アメリカ全土での水揚げ量は過去35年以上確実に増え続けており、北半球で最大であり、最も脆弱な漁業の一つである。研究は、アメリカンロブスターの水揚げは、気候に敏感であるロブスター加入量により決定され、近年海水温が上昇していることが、過去10年間の加入量増加の一因となっている可能性があることを示す。アメリカンロブスター漁の例により、加入量の変化を招く要因をもっとよく理解することが必要であると認識されるようになった。しかし、ほとんどの商業漁業の規制のように、アメリカンロブスターの資源アセスメントは、収穫率と過去数年間の資源推定値の分析にとどまっている。
この論文で、田中氏らは、単一種の資源量評価に環境因子を盛り込むためのモデルベースのアプローチを構築した。
彼らは、底部温度および塩分濃度を用いて、ロブスター加入生息地の適合性指数の時間的変動を予測するために生物気候のエンベロープモデルを使用した。また、サイズ構築化した個体群動態モデルにおけるロブスター加入量の動態を明らかにするために、気候による生息地適合性指標を用いた。著者らは、環境指標の有無にかかわらず、評価モデルを当てはめた際の推定加入量と漁獲死亡率を比較し、2つのモデルのレトロスペクティブバイアス(Mohn’s Rho)を計算した。これらの比較を基に、気候によるロブスター生息地の適合性の変化が加入量の増加の原因となっており、資源量評価における改善の可能性があると結論づけている。
環境変動性を漁業資源評価に組み込むことは、未だ限られた地域でしか実践されていない。一方で、漁業管理に環境情報を組み込まなかったことが、過去の漁業の衰退に影響していたこともわかっている。気候による海洋種の分布や生産性の変化が著しい現在、この不備を改善することは喫緊の課題である。この研究は、環境による海洋生態学的プロセスの理解を深め、変化する環境における適応管理能力を高めるために使用できるモデルベースのアプローチを提示している。