気候変動の記事が新聞の一面を飾ったり、1頭のライオンが殺された、という投稿がFacebookで一気に何千もの人々に拡散されるエコフレンドリーな世の中であるのに、絶滅の危機に瀕しているネズミイルカの存在すら知られていないということがなぜ起こるのだろうか。

コガシラネズミイルカは、1996年には600頭が確認されているが、2016年には60頭に激減しており、異常な速さで絶滅の危機に直面しているという事実が、今月初めにMexico’s Minister of the Environment and Natural Resources で報告された。最大でも1.5メートルにしかならない世界最小の海洋哺乳類だ。黒い目や、死後でさえも笑ったように見える丸い口を持ち、十分に可愛らしい要素を持ち合わせている。

「メキシコのパンダと呼ぶ人たちもいる。」と話すAndrés Cisneros-Montemayor( UBCネレウスプログラムフェロー)は、カリフォルニア湾の保全象徴種としてコガシラネズミイルカとトトアバについての論文を発表した。「コガシラネズミイルカの保全は大きな問題である。乱獲はどの種が対象になろうと悪いことであるが、コガシラネズミイルカは海洋哺乳類の象徴であろう。保全しなければならない種があるとしたら、まさにこれに他ならない。

世界で最も絶滅に近い海洋哺乳類についてはそれほど知られておらず、1958年までは科学者に記述されることもなかった。コガシラネズミイルカが生息する海域に出航する漁師たちでさえ滅多にその姿を見られない。音響と外観測量を用いてその小さな生き物の音を特定し、個体数を測定していた。

The first vaquita to be photographed. Image: Alejandro Robles

コガシラネズミイルカの生息地は世界でただ一つ、カリフォルニア湾北部に位置する西部バハカリフォルニア半島と本土の間である。この地域は先住民グループや他の商業漁業のための伝統的な漁場でもある。コガシラネズミイルカの死因のほとんどは、カリフォルニア湾で魚介類の漁のためにしかけられた刺し網に引っかかり、溺れたことによるものだと考えられる。

コガシラネズミイルカの話は、危機に瀕しているもう一つの種トトアバと密接に関係している。トトアバ漁の漁獲高は、1942年に2000トン以上に達した後、急激に落ち込んだ。1976年、トトアバは絶滅寸前としてリストに挙げられ、漁は例外なく禁止された。しかし残念なことに、トトアバ一頭で巨額の儲けがでるため、後も違法漁業が続いている。現在、中国では、トトアバの浮き袋が1kg1万ドル程で取引されている。

「カリフォルニア湾北部を保護するという考えは、元はトトアバの乱獲がきっかけである。当時、トトアバは非常に重要な漁業であったのだが、その後奇しくも崩壊した。というのも、アメリカは、ミード湖(アメリカで一番広い貯水位置)を作ったフーバーダムと同様にコロラド川にダムを建造した。よってメキシコに水が流れなくなり、トトアバの全生息地が破壊される格好となった。確かに乱獲もあった。がしかし、生息地が消滅したことがトトアバの個体数減少につながったのは明らかである。」とCisneros-Montemayorは話す。

トトアバとコガシラネズミイルカ両方の生息域は、コロラド川デルタ保護区の一部にある。そこは、ダムの建築や分水のために、過去80年以上に渡って劇的に変化してきている地域である。

「デルタ保護区は、カリフォルニア湾内において非常に生産力があり、ユニークな生態系を持つ場所であった。森林地帯だった場所が、今では砂漠と化している。トトアバやコガシラネズミイルカを以前のような個体数へ戻すためには、これまでの生態系を取り戻す以外に方法はない。漁業だけが現状を引き起こしているわけではないのだ。」とも語る。

また、漁業によってコガシラネズミイルカが殺されていることが、広く社会問題の一つとなっているのはなぜだろうか。

さらに彼はこう続ける。「個体数減少の根本的な原因である乱獲の問題にいかに対処していくか、我々はより一致団結し努力していく必要がある。乱獲の要因は貧困であるとされることもあるが、必ずしもそうではない。ただ、貧困が重要な意味を持つ事は確かである。家族を養うために人々は漁をする。このコミュニティに住む人々を保全活動に駆り立てるものは何もない。これらのコミュニティにとって、漁業は唯一彼らのできることなのだ。このようなコミュニティの存在が忘れられがちである。彼らは一本道の先にある人里離れた場所に居を構え、漁業以外に為せる事がないのだ。」

Cisneros-Montemayor は、これらの小さなコミュニティで生活するための他産業や代替方法があまりなく、結果としてその多くがアメリカへ渡ったり、ドラッグ組織で働くことになることを特筆している。そして、観光客がメキシコの他の地域でお金を落としていくので、多くのインフラ設備や予備知識も必要となる。

「生態学や保全によって解決されない、もっと広い問題なのだ。100年前に為されるべきだったことは、このような人々に漁以外の機会を作り、与えることだったのだ。この問題に限って、また世界を通じ、人々を貧困から救い出すために別の仕事を作り出したり、インフラ、教育や産業への投資をする代わりに、漁業が政府から簡単に見られている。我々は、人々が自分たちの手でいかに資源を管理できるか、その手法に焦点を当てる必要があり、また持続可能性が個々の利益を生み出すことを信じていきたい。」そう、結んだ。