By ハナ・バセット School of Marine and Environmental Affairs, ワシントン大学
Surya Vanka氏が生み出した新たなデザインコミュニケーションの手法 ”Design Swarm(デザインスウォーム) “は、Controlled chaos(管理された混沌)と説明しても良いだろう。現代社会が直面する社会的な問題を解決するために多様な頭脳を効率良く結集させるこの手法は、今後その完成度が高くなるにつれて期待が持てるかもしれない。産業デザインのリーダー的存在であり、マイクロソフト社の元UXディレクター であるVanka氏により発案された、ハッカソンとブレインストーミングを融合させたこの革新的な手法は、解決策が強く求められる問題に取り組むために世界中から注目されている。
去る1月、シアトル。Vanka氏は、気候変動による海への影響、または仕事、食物、文化、生活など海に関わる人々への影響に関する分かりにくい問題に取り組むために、ワシントン大学の大学院生と組んで、彼のデザイン/カタリストシステムを導入した。 コミュニケーションやデザインに携わる60人の有望なリーダー達が、この世界的問題に取り組むために500のアイデアを生み出した。それも1日で。
500のアイデアとは、行き過ぎではないかと思うかもしれない。しかし「いや全く」とVanka氏は言うだろう。「批判的であるのは簡単だが、クリエイティブであることはとても難しい。私たちは、モナ・リザを作り出そうとしているのではない。問題を解決しようとしているのだ。」と学生たちに話す。短時間で膨大な量のアイデアを生み出すので、学生たちは胸にためているアイデアを共有する必要があり、すると創造力が湧き出すというのだ。
自然と海の温暖化が絡んだ複雑で困難な問題である。早いペースを保った中で、招かれた専門家達は、問題の一側面を10分間でかいつまんで話した。太田義孝博士(ネレウスプログラム統括・政策)は、気候変動がこのまま抑制されなければ20年後の寿司メニューがいかに変化してしまうかを紹介した。その他、ワシントン大学教授やドキュメンタリー映画監督が同様のテーマについて発表した。
今回の取り組みは、ネレウスがワシントン大学のコミュニケーションリーダーシッププログラムとの新しいコラボレーションを確立するために、非常に重要であった。メディアスタディー、特にストーリーテリングの手法を使って、いかに未来の海と持続可能な水産資源の利用に関して「ストーリー」を作り上げ、人々に伝えるかという新たな試みである。元マイクロソフトのVanka氏の手法は、その一つとして取り上げられており、たった1日で科学情報からコンセプト、そしてそれに沿ったメディア戦略を組み立てるという、過激な手法である。ネレウスをクライアントとして扱うことで、ワシントン大学の学生達は未来の海を伝えるストーリーを新たなアイディアとともに作り上げる事に挑戦した。彼らのメディア戦略には、新たな3D体験やドキュメンタリー製作、また地下鉄を使った情報アニメーションなどユニークな取り組みが多数挙げられた。
一般的にこの手法は、社会の緊急な問題(ホームレスの問題)などを扱う時に、エキスパートの枠を超えたブレインストームの手法として用いられている。しかしワークショップの後で参加者が気づいた事は、自分の枠にとらわれるなという事であった。「私たちはみんなアイデアを共有するということになるとどうしても防護してしまう傾向にある。本当に革新的なアイデアを生み出すために私たちの抑制をなくす必要がある。」のだ。
ワシントン大学コミュニケーションリーダーシップの「海と温暖化に関するコミュニケーションプロジェクト」の取り組みは、3月に最終プレゼンテーションとしてまとめられ、今後のネレウスとワシントン大学のコラボレーションのはずみとなる。
ハナ・バセット
ワシントン大学/SCHOOL OF MARINE AND ENVIRONMENTAL AFFAIRS リサーチアシスタント
ハナは、ワシントン大学で小規模漁業に重点をおいた、海洋における人間と自然が融合した仕組みに関する研究で修士号取得を目指している。