パリ協定で掲げた世界の気温上昇を1.5度以内に抑える目標を達成すれば、漁業に大きな利益がもたらされるだろう、という日本財団ネレウスプログラムの研究論文が学術誌Scienceに掲載された。地球温暖化が摂氏1度抑えられるにつれ、潜在漁獲量は年間300万トン以上増える可能性がある。

「温度や酸素濃度に見られる潜在漁獲量を左右する海洋条件の変化は、大気の温暖化や炭素排出量にも強く関連している。二酸化炭素が大気中に1トン排出されるごとに、最大潜在漁獲量は相当減少する。」と著者であるThomas Frölicher(日本財団ネレウスプログラム 主任研究員/ETH Zürich シニアサイエンティスト)は話す。

筆者らは、世界の漁業の変化をシミュレートし、損失または利益を数値化するコンピュータモデルを使用して、パリ協定で掲げた気温上昇を1.5度に抑えるシナリオと現段階ではほぼ確約された未来と言える3.5度上昇のシナリオとを比較した。温暖化により、魚はより冷たい海水に移動するため、魚資源の種の構成が変化し、種の入れ替わりを引き起こすだろう。漁師はその変化の影響を受け、漁業管理がさらに困難になると予測される。

 

温度の変化により敏感な地域では、パリ協定の目標が達成されることで大きな利得を生むだろう。インド・パシフィック地域では、 3.5度の温度上昇と比べ、1.5度の温度上昇に留めた場合、漁獲量が40%増加することが予測される。北極地方では、温暖のシナリオ下では魚の流入量が増えるため、海氷がさらに失われ、それにより北極漁業が拡大するのは必至だろう。

「1.5度以内の気温上昇を目標とする重要な理由の一つとして、脆弱な熱帯地域での利益が顕著に生み出されることが挙げられる。気温上昇に左右されやすい地域は、食料、または生活のために漁業に依る所が大きい。加えて、今ではシーフードサプライチェーンが非常にグローバル化されているため、すべての国が影響を受けることになる。パリ協定が達成されれば、誰もが利益を得ることになるだろう。」と筆頭著者であるWilliam Cheung(日本財団ネレウスプログラムディレクター・科学/ブリティッシュコロンビア大学准教授)は話す。

筆者らは、漁業への付加利益を期待して、これらの結果が、国や民間が温室効果ガス排出量を削減するための公約と実行を促すさらなる動機となって欲しいと考えている。

「私たちが予測している傾向は、すでに起きている現象である。電車はすでに駅を出発した後であり、加速する一方である。また、もし二酸化炭素排出量が非常に多い国がパリ協定から脱したら、世界的な努力が減るのは明白だ。パリ協定により漁業がどれだけの恩恵を受けられるかが問題ではなく、どれだけの魚が失われるのかを考えるべきだ。」と著者Gabriel Reygondeau(日本財団ネレウスプログラムシニアフェロー/ブリティッシュコロンビア大学)は語る。

 

この研究 “Large benefits to marine fisheries of meeting the 1.5 °C global warming target”は、Science誌に掲載された。掲載論文:

REQUEST ARTICLE