Written by Nereus Alumnus Robert Blasiak,

この記事はThe Conversationに掲載されたものであり、著者の許可を得てここに転載する。

 人類は地球上に大きな足跡を残しているが、私たちはいつから惑星の生態系の変化の推進者となったのか。多くの科学者は、あらゆる種類の社会経済的傾向が加速し始めた1950年代からだろうと推測する。それ以来、 世界人口は3倍になったかつてないほど多くの食物が栽培されるのに伴って、肥料と水の使用が拡大した。自動車の増加に対応するために高速道路の建設は加速し、一方で観光の嗜好の高まりに応えるために国際線が離陸するようになった。

人間が地球に要求する規模は、それまでの歴史の比ではないほど増大した。この戦後の期間は「Great Acceleration(大加速)」として知られるようになり、多くの人がそれが人新世を生んだと信じている。それは、地球の生命システムの機能に最大の影響を与えた人間活動が自然の力を超えた地質時代である。

しかし、海の研究者は現在、デジャヴの感覚を感じている。過去30年にわたり、70年前に陸上で見られたパターンが海で発生しているのだ。私たちは「ブルーアクセラレーション」を生きており、それは地球での生活に大きな影響を与えるだろう。

 

 

なぜ今ブルーアクセラレーションは起こっているのか?

陸上の資源が減少するにつれて、希望と期待は人間開発の新しいエンジンとして海に向かう傾向にある。深海採掘を例にとっても、国際海底とその豊富な鉱物は、商品価格の高騰により、近年商業的な関心を集めている。国際通貨基金によると、金の価格は2000年から454%上昇し、銀は317%、鉛は493%上昇した。2001年以来、約140万平方キロメートルの海底が、探鉱採掘活動のために国際海底機関によってリースされている。

一部の業界では、技術の進歩によりこれらの傾向がさらに推進されている。実質的にすべての洋上風力発電所は過去20年間に設置された。20世紀終わりには海洋バイオテクノロジー部門はほとんど存在せず、特許を取得した海洋生物の遺伝子配列の99%以上が2000年以降に登録された。

1990年代に、ブルーアクセラレーションが進行し、世界の人口は60億人に達した今日、人口は約78億人に及ぶ。中東、オーストラリア、南アフリカなどの水不足地域の人口増加により、2000年以降に淡水化された海水の量が3倍に増加している。また、2000年以降、出荷によって世界中に輸送される商品の量がほぼ4倍に増加したことも意味している。

なぜブルーアクセラレーションが重要なのか?

かつては著名な科学者の間でさえ、海は広すぎて人間活動によって変わることはないと考えられていた。その見解は、人間が海洋を変えること、海洋における人間の要求の現在の軌道は持続可能ではないという厄介な認識に置き換えられた。

ノルウェー沿岸を考えてみると、この地域には、数百万ドルの海洋ベースの石油およびガス産業、水産養殖、人気のクルーズ船、混雑した輸送ルート、漁業の活動が行われている。2050年までに養殖によるサーモンの数が5倍増加すると予想されているが、この地域の観光産業は2030年までに訪問者が5倍増加すると予測されている。一方で、ノルウェーの南端から広大な洋上風力発電所が提案されている。

海は広大だが、無限ではない。 この海洋空間の飽和は、ノルウェーに限ったことではなく、資源が多く集まる海洋空間は産業間で紛争のリスクを抱えている。 養殖場から脱け出たサケは、自然の海洋資源に海シラミを広め、ノルウェーの漁業との緊張を生み出しています。 ひとたび石油やガス産業で産業事故が起きれば、地元の水産物や観光、また水産物の輸出市場に大きな損害を与えるのは必至だ。

より根本的には、海洋生態系への負担が増大しており、私たちはこれらの生態系についての理解が十分ではない。漁業管理は森林管理と同じだと言う生態学者がいた。木と同じように魚を数えているのだが、魚は目視でカウントできない上、動きまわる生き物だ。

海洋開発は、調査に先行する傾向がある。象徴的な例として、うろこ状の足のカタツムリがあげられる。この深海軟体動物は1999年に発見され、2019年までに絶滅危惧種のIUCNレッドリストに登録された。それはなぜか。科学者が知る限り、この種はインド洋から2,400メートル以上離れた0.02平方キロメートル未満の3つの熱水噴出孔でのみ発見された。現在、その3つのベントシステムのうち2つが、探鉱リースされている海域内にあるのだ。

 

次に考えられることは?

スペースコロニーを夢見ている億万長者は、もう少し近い場所に夢を描くことができる。ブルーアクセラレーションは海洋資源をより多く消費するが、この広大なエリアは宇宙と同じくらい謎めいている。火星と月の表面は、海底よりも高い解像度でマッピングされている。海洋生物は陸上よりも20億年長く存在しており、推定で91%もの海洋種は科学的観点から記述されていない。それらの遺伝的適応は、科学者が明日の抗生物質や医薬品を開発するのに役立つ可能性があるが、その達成までもたずに消滅する可能性がある。

ブルーアクセラレーションをより持続可能かつ公平な軌道に導くタイミングは正しい。国連持続可能な開発のための海洋科学の10年が始まろうとしており、海洋生物多様性に関する新しい国際条約が交渉の最終段階にあり、2020年6月に政府、企業、学者、市民社会が国連海洋会議に集結する。

まだ多くのシンプルな議題が残っている。ブルーアクセラレーションを推進しているのは誰か。そして、誰が取り残され、忘れられているのか?これらはすべて緊急の議題だが、おそらく最も重要で、答えを出すのが最も難しいのは、これらすべてのグループ間でのつながりと関与の言質をとる方法である。それができなければ、ブルーアクセラレーションの牽引するものは絶えず動いて見えず、管理が不可能な生態学者の類推する魚のようになる。手遅れになる前にやるべきことがある。

 

Reference

Jouffray, J., Blasiak, R., Norström, A.V., Österblom, H., & Nyström, M. (2020). The Blue Acceleration: The Trajectory of Human Expansion into the Ocean. One Earth 2, 43-54. link.