By レベッカ・アッシュ (ネレウスシニアフェロー/プリンストン大学)

私の母は、油絵、アクリル、水彩、ペンとインクで芸術を創作する抽象画家である。私が海洋科学者になってから、科学者としての創造力の役割について、時折母と話し合う。芸術と科学は異なる方法により交差すると、芸術家や科学者が語っていることに気づくに至った。しかし、両者は、芸術と科学が創造されるプロセスを全面に押し出す傾向にある。ここでは、私はプロセスを誇張しすぎではないかと言いたい。

科学と芸術の仕事に携わる著者と母(Clare Asch)

科学者が「科学のアート」について語る時、簡単に数値化できず、科学を発展させるために必要な熟練された技術を要する、科学的プロセスについて言及することが多い。例えば、水産資源科学者は、耳石を読み取る技術をマスターするために何百何千時間を費やすだろう。耳石とは、魚の耳の骨のことで、年輪のように日ごと年ごとに増大していく。耳石にあるすじは、魚の年齢や成長速度、住環境を測定するために調査されるのである。芸術家が、芸術のために耳石から何かを読み取らなければならないような作品を作るだろうか。そんなことは絶対にない。なぜならこのプロセスは、創造性とはかけ離れているからだ。

イワシの幼魚(カリフォルニアマイワシ)から抽出した耳石

それに対して、芸術と科学の交差を強調する芸術家達は、科学的プロセスが実際よりもさらに創造性を含んでいると考えている。一般の人々や多くの芸術家が抱く科学というもののイメージでは、科学者は確立されたパラダイム変えるような大きなアイデアを考えるとき、いつも「発見!」の瞬間があると思われている。「発見!」の瞬間が起こる時、科学者は、科学の専門家でない多くの人々が思っているような科学的プロセスの中心にいるわけではない。実験によって仮説を検証するには、数ヶ月から数年に渡り、何度も同じ作業が繰り返される。全く同じ技術を使って海から何百ものサンプルを集め、すべての複製が同一の状況下で実験されるのだ。

左:北大西洋の植物プランクトンと魚がグラデーションを表したカラーマップイメージ Credit: Rebecca Asch 右: Argus Peacock(水彩) Credit:Clare Asch

芸術を創作したり、科学を実践するプロセスを考える際に、芸術と科学の交差を明確にできないのなら、この交差はいったいどこで起こっているのだろう。この交差部分は芸術家や科学者によってプロダクトが開発される背景で起こっているのだと主張したい。科学的研究の主要プロダクトの一つは、研究結果を視覚的に示す一連の数字である。芸術家のように、科学者は、彼らの研究の視覚的表示を完成させるのに相当な時間をかけている。事実、経験豊かな多くの科学者は、科学論文は完全に数字を使って構成されるべきであると推奨している。

ここで、私の母が創作した絵と私の研究の一部である「カラーマップ」の間に見られるいくつかの類似点を紹介して結論を述べたい。海洋学では、カラーマップは海洋的性質(水温、塩度、溶存酸素)が深度と緯度でどのように変化するかを示すためによく使用される。

  左:Piroska(油彩) Credit: Clare Asch            右:北太平洋での植物プランクトン最繁殖期の中間日を示すイメージ

上に、私のカラーマップ画像と母の抽象画を並べている。最初の例では、北大西洋のカラーマップとArgus Peacockという題の油絵の両方とも、水の流れを描いている。2つ目の例は、芸術家と科学者の双方が、メッセージを伝えるために色の強度/彩度バリエーションをどのように入れるかに重きを置いている。

最後に、芸術と科学がどのように交差するかあなたも一緒に考えてほしい。芸術と科学的な創造のプロセスは私が考えているよりもっと似通っているのだろうか?科学者として、芸術的な、科学的なメリットを持つイメージをどのようにデザインできるか?画像イメージを用いることで科学的メッセージを一般の人々に伝えやすくなるだろうか?

Clare Aschの芸術作品に興味がある方は、こちらのウェブサイトをご覧ください。www.clare-asch.com?


Profile_Princeton_RAsch.jpgREBECCA ASCH, PHD, BIOLOGICAL OCEANOGRAPHY, PRINCETON
レベッカは、気候と漁業の相互作用の研究に焦点を置く水産海洋学者である。ネレウスシニアフェローとして、 魚の産卵時期と 植物プランクトンが大増殖する時期が、将来的にどう変化するかを調査するために、NOAA (アメリカ海洋大気庁)の関連機関Geophysical Fluid Dynamics Laboratory (地球物理流体力学研究所)で開発されたEarth System Model を使用している。この研究では、気候変動により、これらの季節的な事象でこれまでとの「不一致」が増加するだろうという仮説を立て、調査している。このような不一致が稚魚の餌不足を招き、幼魚の成長が遅くなったり、新たな加入尾数が低下したり、漁業の生産性が低下することを導いている可能性がある。