春になって、植物の芽が地面を押し上げ、日中暖かくなり、日が長くなってくると、サーモンの稚魚が卵からかえり、泳ぎ、餌を食べ始める。このとき、稚魚は植物プランクトンを餌とし、植物プランクトンも繁殖しているべきである。しかし、気候変動の影響で温暖化が進み、サーモンのような多くの魚の稚魚がこれまでより早い時期に卵からかえってしまったり、逆に遅くかえったりしている。同様に植物プランクトンの繁殖にも同じ状況が起こっている。そのため、餌が繁殖する時期と稚魚が餌を必要とする時期が合わなくなってきているのだ。

「北カリフォルニアのサーモンは、2000年半ばからおおむね壊滅的な集団的消滅に見舞われており、植物プランクトンの繁殖時期が一ヶ月ほど遅くなってしまったのだが、サーモンは通常通りの時期に孵化場から放流されたことが、壊滅の理由として挙げられる。サーモンに十分な餌の供給がなかったのだ。」と、ネレウスフェローシップを終了したRebecca Asch(プリンストン大学)は話す。

ネレウスプログラム・ポスドクフェローシッププログラムの一環として、Aschは、漁業、プランクトンの生態、気候について研究してきた。

「気候変動と季節周期の相互作用に関心を寄せている。季節周期は、多くの場合、温度に非常に密接に結びついている。温暖化が進むにつれて周期も変化していくだろうし、すでに変化しているという多くの証拠がある。それぞれの生物が季節移動や生殖する時期を定めるのに異なるシグナルを使用しているのかもしれない。それにより、捕食者や獲物が異なる反応を示すようになったら問題となるだろう。」と Aschは語る。

季節周期のこれらの変化は、漁業の生産性や水産物の供給に影響を及ぼすだろう。

「魚と餌となる獲物が釣り合わなくなってしまったら、生態系の環境収容力は減少する。そうすると、多くの魚が養われず、結果我々の食料としての魚の量が減る。」とAschは話す。

Asch は、ネレウスフェローとしての3年間で統計をとった。共同執筆で10の論文を発表し、33の発表を行った。また、13名の学士と修士の学生たちにアドバイスし、4つの提案書を仕上げ、8カ国を訪れた。彼女は、気候変動の世界の海への影響に関する第3回国際シンポジウムでBest Early Career Presentation賞を受賞した。

彼女は、ネレウスでの経験を生かし、今後は、東キャロライナ大学の水産生物学でアシスタントプロフェッサーに就任する。

「自分のキャリアの大半を、一カ所で、単一種または一握りの種のダイナミクスに費やす水産科学者は多数存在する。ネレウスプログラムは、世界的展望を持っている漁業プログラムである。私は海洋保全のために社会科学者と自然科学者が結集したという点において、ネレウスと同様に多分野にまたがるプログラムに参加してきた。しかし、ネレウスは、他のプログラムと比較して、確実に成功を収めているプログラムだと思う。ネレウスは、ほぼ半々の割合で社会科学者と自然科学者が関わり、広範囲の専門分野をカバーしているという面で非常に優れている。」とAschは振り返った。