Written by Nereus Fellow Solène Guggisberg,
2018年末、日本は国際捕鯨取締条約(ICRW)から離脱し、国の沿岸から200海里以内の海域、排他的経済水域内での捕鯨再開を宣言した。脱退に関する最終通知は公にはされていないものの、2018年12月26日に条約寄託国は通知を受け取っている(暫定文)。法的権利と義務の観点から、日本の脱退が何を意味するのかを検討する価値がある。このブログでは、適用される法律と日本の歩みの背景についての簡単な説明に続いて、日本が発表した決定を取り巻く法的問題を考察する。捕鯨問題ほど物議を醸す国際法はあまりない。クジラが数世紀の間、他の生物のように自然資源として捉えられていた一方で、これらの海洋種の漁に関する問題は、20世紀後半にイデオロギー的に訴えられるようになった。一部の国々やコメンテーターらは、自身の利益のためにクジラを保護すべき巨型動物類として捉えている。逆に、これらの動物を魚と同じような方法で(持続可能に)利用する資源と考えている人々もいる。捕鯨国と反捕鯨国の背後にあるイデオロギーの問題について議論する意図はない。
1946年に15か国がICRWに署名し、1948年に発効された。国際捕鯨委員会(IWC)は、その規定を実行するためにICRWの下に設立された団体で、協定国は自動的に委員会のメンバーとなる。この条約には2つの目的があるが、相対的なウェイトには議論の余地がある。前述したように、締約国は「世界の国々の関心は、クジラ資源に代表される大きな天然資源を次世代のために保護することにあることを認識」、「捕鯨資源の適切な保全を規定し、捕鯨産業の秩序ある発展を可能にするための条約を締結」する。時間が経つにつれて、また以前からあまりにも効果的な管理がなされず、クジラ種のいくつかが急激に絶滅の危機に晒されてきたことで、条約によって形作られた体制は保全へと発展していった。そして、大多数のメンバーの意志を反映して、外見上は完全保護の立場へと移行していった。IWCの下、承認する漁獲量の水準を設定するために、毎年、付則が採択される。1986年の捕鯨シーズン以来、商業捕鯨の水準はゼロに設定されている。一時禁止令は、当初、クジラを保護し、過剰搾取から回復するための一時的な措置として提示されていたが、それを引き上げるための実質的かつ手続き的な条件はこれまで満たされておらず、その禁止令が制度の中心となってきた。ICRWおよび付則に規定されている商業捕鯨禁止の唯一の例外は、科学調査のための捕鯨および先住民生存捕鯨である。
当初、日本は一時禁止令を保留にしたため、それに拘束されていない状態である。アメリカが、経済制裁を課す脅しの形で圧力を与えたことにより、日本は保留を撤回したが、一時禁止に反対する姿勢は変えなかった。日本は、鯨の資源量や種が、漁獲できるレベルにまで十分に回復していたと異議を唱えた。IWC科学委員会は、その議論を支持したが、必要とされているIWCの4分の3の国々の合意を得られなかった。日本はまた、沿岸コミュニティの権利として先住民生存捕鯨の取得も試みたが、失敗に終わった。さらに日本は、南極で捕鯨を続けるために科学捕鯨免除を利用した。それに対し、オーストラリアは、日本に訴訟を起こし勝訴した。国際司法裁判所は、日本のJARPA IIプログラムは、ICRWに基づく科学捕鯨ではないと判断したのだ。日本は、数回に渡り、IWCを離脱すると牽制しているが、アイスランドやエクアドルが1992年と1994年に離脱し、10年後に再加入している背景もあり、その威力もなくなっている。
日本はIWCを離脱できるのか?ICRWの下での義務とは何を意味するか?
ウィーン条約法条約は、締約国に向けた条約から離脱することができることを明確に規定している。条約、または協定国からの離脱は条約の規定に従って行うことができる。
ICRWの第11条に、離脱することができると明記されている。
締約国政府は、1月1日までに通知を行うことで、その年の6月30日をもってこの協定から離脱することができる。その通知を受領した時点で、直ちに他の締約国政府への通知を行う。
日本は、2018年12月26日に公式の離脱通知を出したので、2019年6月30日にICRWの規定に拘束されなくなる。ウィーン条約法条約にあるように、当事者による多国間条約の撤回は、その条約を履行するための他の義務からも解放されることになる。
日本にはどのような国際法が適用されるのか?
日本の撤退によって、拘束力のある他の適用可能な国際法に影響を与えることはない。ICRWにおける規則と同等の慣例の国際法に従う義務が日本に残っているのかどうか疑問に思うだろう。しかし、この条約に含まれる義務が、慣習的に国際社会に浸透していたとしても、議論の余地はあるが、日本はおそらく一貫した反対国の模範例となる。慣習国際法は、一定数の国が、拘束力のある規則とみなしていることに従って行動する時
に形成される。これらの要素は、慣習国際法の成立のために必要な2つの条件、各々の国家の慣習と法的義務に従って行動しているという信念を表している。また日本は、一時禁止令に対しての行動と捉えられるので、慣習国際法は、永続的に反対している国々を除くすべての国を拘束すると見なされる。
しかし、1996年に日本が批准した国連海洋法条約は引き続き適応される。ある国のEEZ内に適用される規定の一部では、特定の条項(第65条)は、海洋哺乳類に焦点を当てており、次のように述べている。:必要に応じて、規定よりも厳密に海洋哺乳類の搾取を禁止、制限または規制するために、本条項のいかなる部分も、沿岸国の権利または国際機関の権限を制限するものではない。加盟国は、海洋哺乳類の保全を目的として協力しなければならない。またクジラ類の場合、特に保全、管理、研究のために国際機関を通じて適切に活動しなければならない。
最初の文により、沿岸国は、EEZに適用できる最適利用の目的から解放される。この目的は、持続可能な限り漁獲することで、沿岸国がEEZの海洋生物資源を最大限に活用しなければならないことを意味する。そして、全てを漁獲できない場合は、第三国にアクセス権を与えることになる。しかし、その目的でさえも、沿岸国が過剰搾取をしてはならないことを強調している(第61条(2))したがって、日本はEEZ内でクジラを捕獲できるが、保全を念頭に置いて、科学的に資源を管理しなければならない。さらに、日本は、高度回遊種(ほとんどの場合クジラであるが)を扱う際には、他の関連のある国々と協力するという一般的な義務を負っている(第64条)。この義務は、海洋哺乳動物の場合は、国家が適切な国際機関を通じて協力することを要求する第65条の2番目の文章によって認識を強められた。これらは、IWCのみ、またはIWCとNMMCO(北大西洋海洋哺乳類委員会)のどちらか、そして海洋哺乳類の保全に専心した他の組織でも主張されてきた。どちらにせよ、日本のEEZにおける適切な国際機関が、IWCのみである可能性がある。そのため、日本は、離脱したフォーラムを通して他の国々と保護に向けて協力するという義務を担っている。
最後に、1980年代に日本が加入した条約、絶滅危惧種の国際貿易条約(CITES)において、いかなる種のクジラも貿易は規制されている。CITESの下で保護されている種が国際的に取引される際、とりわけ種の存続に弊害がなく、漁獲が合法であることが証明されなければならない。記載されている種について、国家レベルで発効される国際的な許可制度により、国家間での商業取引は制限され(添付文書II)、禁止されている(添付文書Ⅰ)。また保護される種が、国家管轄を超えた地域、公海で捕獲された場合、これは国際取引とみなされるため許可証が必要となる。日本はCITESの締約国であるが、条約(第15条)に従って許可されているように、ほとんどの種のクジラに関して保留を申請している。その結果、日本はこれらの種(第13条)に関しては、無所属として扱われる。しかし、一部のクジラ群は禁漁が免除されており、日本はその点でCITESの規則に拘束される。日本は、これらのクジラのうち、特に北海の公海上のAppendixIに属するイワシクジラ(Balaenoptera borealis)を調査捕鯨を理由に捕獲している。これにより、CITES常任委員会は日本の行動を見直すようになった。そのような漁獲は、商業目的ではないという必要条件に違反していると判断したからである。
CITESは、EEZ内での漁獲に関しては規制しないだろう。日本が条約の下で要求されるものと同様の文書を出さなければならない唯一の状況は、日本が、許可制度に拘束されている他国とこれらの種を取引したかどうかによる。さらに、未だ商業捕鯨に関心があり、クジラ製品を購入する国々(アイスランド及びノルウェイ)は、CITESの下で留保に入っている。したがって、日本は他のCITES締約国とクジラを取引する場合、理論的にはCITES型の手続きを適用するよう要求される可能性があるが、実際には、EEZ内で意図して再開された捕鯨は、この条約の下で適用される規則の対象とはならないだろう。
法的な問題を超えて、国際社会の政策反応がどうなるかはまだ分からない。序章で述べたように、経済制裁の脅しは、過去には、日本が捕鯨一時禁止を受け入れるよう強要するために使用されてきた。米国によるこういった脅しの法的根拠は依然として存在する。米国が日本との水産物の貿易を停止することを決定した場合、主にそのような措置が国際貿易(すなわちWTO)法の下で正当性が認められるかなど、さらなる法的問題を引き起こす。IWCからの離脱は、多くの法的、政治的影響を伴う動きであるが、それは恒久的な状況ではないかもしれない。アイスランドとエクアドルは、1990年代にIWCを去り、その10年後には再び加わった。すべての国が請け負う義務は、誠実な交渉が効果的な協力に向かう一歩となることであるが、現在の行き詰まりとなっているイデオロギーや文化的ギャップは、簡単に解決できるとは限らない。一方で、国連海洋法条約に基づく資源の持続可能な管理義務によって、クジラが過剰搾取や絶滅の危機から守られることを願ってやまない。