Written by Nereus research associate Ryan Swanson,
2019年9月14日~15日、ニュージャージー州プリンストン大学で本プログラム最後の日本財団ネレウス海洋科学会議が開催された。ネレウスフェロー、主任研究者、同窓生、リサーチアソシエイト、ゲスト、総勢約100人が世界中から集まる機会となった。10年に渡る学際的な自然・社会海洋研究を振り返ると共に、書籍「Predicting Future Oceans: Sustainability of Ocean and Human Systems Amidst Global Environmental Change(未来の海を予測する:地球環境変化の中での海洋および人間システムの持続可能性)」を発表し、ネレウスプログラムの集大成の出版を祝った。初日は、Andrés Cisneros-MontemayorとKaty Setoが進行し、特別ゲストの日本財団常務理事海野光行氏とJorge Sarmientoが歓迎の言葉を述べた。それに続いて2日間を通して、次のテーマで6セッションのプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われた。
- 海洋システムの変化
- 海洋生態系の変化
- 漁業および水産物供給の変化
- 海洋の社会的環境の変化
- 国境を越えた海洋ガバナンス
- 持続可能性のための海洋ガバナンスの変化の機会
各セッションで、発表者は自分の研究と専門分野について5分間のライトニングトークを行った。各トークは、発表者によって執筆された章に対応しており、その模様を録画したビデオは、今後Youtubeにアップロードする予定である。一般の方々に閲覧してもらい、各トピックの詳細を伝える機会となることを願う。

リサーチフェローMuhammed Oyinlola が海洋養殖について発表
以下は、講演題目と発表者
- 気候変動適応と空間的漁業管理– Becca Selden海洋生態系におけるバイオマスの流れの変化:過去から未来へ– Hubert du Pontavice
- 気候変動下での種の分布変化における周期的な気候変動の役割 – Sarah Roberts
- 北米の海洋種の分布範囲シフトのパターンにおける温度の役割 – Zoë Kitchel
- 気候変動下の21世紀の漁業経済と漁業努力のダイナミクスの予測– Vicky Lam
- 海洋養殖:気候変動下での認識と展望 – Muhammed Oyinlola
- 世界の水産物市場の将来の展望– Oai Li Chen
- 環境変化が小規模漁業コミュニティに与える影響:適応能力を超えてコミュニティの対応に移行– William K. Oestreich
- 海域に関する海洋政策:漁師の視点と価値を取り入れる– Julia Mason
- 太平洋における気候適応、避難、移住の政策における伝統的知識の統合 – Marjo Vierros
- 社会的責任のある水産物における人権の役割– Lydia Teh
- 気候変動、マングローブ林、東南アジア、カリブ海の漁業– Frédérique Fardin
- 各国のコンプライアンス– Solène Guggisberg
- データから決定まで:公海における漁業と生物多様性 – Guillermo Ortuño Crespo

Vicky Lam(リサーチアソシエイト)が、21世紀の気候変動下での漁業と漁業努力の経済性の予測について発表
プレゼンテーションの後、専門家によるパネルディスカッションが行われ、セッションのテーマに関する考えや意見を議論し、今後焦点を当てるべき海洋の問題について考察した。

漁業と水産物供給の変化に関するパネル。左からモデレーター:Andrés Cisneros-Montemayor & Katy Seto、研究責任者 Laurie Chan、 Kate Crosman、 Helen Packer、Philippe Cury、Jack Kittinger
海洋生態系の変化に関するディスカッションの一環として、パネリストに対して「あなたが最も驚いたことは何か」「知識のどのようなギャップを埋める必要があるのか」などの質問が出た。
「私たちはどれだけ無知なのか、全てのつながりとはどのようなことか。これらのことを念頭に置いて、生態系を適切に保つことを目指すべきだろうか。それは可能なのだろうか。それは哲学的な懸念だ。では、ベースラインは何か。どのように決定されるのか。人はすぐに箱庭のように守ろうとするけれど、私は物事を再生する方が大事だと思う。」
「私たちの理想として、生物多様性をどの程度保てば十分と言えるのか。自然愛好家として、多ければ多いほど良いと言うだろう、しかし生態系サービスの恩恵を受ける人は違う回答かもしれない。」

海の未来に関するパネルディスカッション。左から、太田義孝(ネレウスディレクター・政策)、Kelly Kearney(同窓生)、 Philippe Cury(同窓生)、笹川陽平氏(日本財団会長)

笹川陽平会長に記念品を贈呈するネレウスフェロー。左から、Gerald Singh、Tiff-Annie Kenny、Julia Mason、笹川陽平会長
このイベントは、ネレウスプログラム参加者による大規模な共同研究と学際的な研究努力の成果、そして太田義孝(ネレウスディレクター・政策)による最終プレゼンテーション「結論:海洋と社会の持続可能かつ公平な関係」で締めくくられた。

ネレウスプログラム最後の会議を総括する太田義孝(ネレウスディレクター・政策)Photo: Tyler Eddy
Frick Chemistry Laboratory Photo: Princeton University, Office of Communications