Written by Nereus Research Associate Juan José Alava,
この記事はThe Conversationに掲載されたものを著者の許可を得て再編集したものである。
私たちは、人間と社会が生態系を変化させている時代、つまり人類新世に生きている。汚染、人為的な気候変動、乱獲は、すべて海洋生物と海洋食物網を変えてきた。
海水温の上昇により、一部の海洋生物における有機水銀(メチル水銀)などの神経毒性汚染物質の蓄積が増幅している。これは、エネルギー摂取のために大きな魚を捕食するシャチなど、海洋哺乳類を含む頂点捕食者に特に影響を及ぼす。
現在、水銀汚染、気候変動、乱獲が組み合わさって、海洋生物と食物網がさらに汚染されている。これは、生態系と海洋だけでなく、公衆衛生にも明らかな影響を及ぼす。気候変動に伴い水銀で汚染された水産物類を消費するリスクが高まっている。
水銀濃度の上昇
1990年から2010年には、規制によって、石炭火力発電所などの人為的発生源からの世界の水銀排出量が削減されたが、 水銀はまだ海洋環境に存在している。
メチル水銀は食物網全体の魚の筋肉組織に蓄積し、より大きくて栄養レベルの高い捕食者に「生体内蓄積」する。これが、大型遠洋魚(例:マグロ、カジキ、ビルフィッシュ、サメ)ーたくさんの魚を食べる魚ーが、一般に小さい魚よりも危険であると考えられている理由である。
人間への影響として、水銀により神経障害を引き起こす可能性がある。胎児の発達期および小児期に水銀にさらされる子どもは、注意、IQ、細かい運動機能および言語を測定する検査でパフォーマンスが低下するリスクが高くなる。
気候変動は、海洋における水銀の侵入と動態の変化、およびこれらの海洋食物網の形成と構造の変化により、食物網の上部にいる魚類や海洋哺乳類におけるメチル水銀の蓄積を増幅する可能性がある。暖かく酸性度の高い海で、より食物網に入り込むメチル水銀の量が増える可能性がある。
乱獲はまた、一部の魚種の水銀レベルを悪化させる可能性がある。太平洋のサケ、イカ、飼料魚、ならびに大西洋クロマグロ、大西洋タラ、他の魚種は、海水温の上昇によるメチル水銀の増加の影響を受ける。
私たちのモデリング研究により、太平洋最大のサケの一種であり、絶滅の危機にある南部に住むシャチの主要な獲物であるチヌークサーモンは、気候変動によって引き起こされる獲物の変化により、高いメチル水銀蓄積にさらされると予測される。
温室効果ガスの排出量が増加し続け、地球の気温が2100年までに2.6Cから4.8Cに達する最悪の気候変動シナリオの下で、チヌークサーモンのメチル水銀は10%増加するだろう。しかし、排出量を抑え、今世紀の終わりに世界的な温度上昇が0.3℃から1.7℃ほどであるベストシナリオでは、水銀レベルは1パーセントの増加に留まると予測する。
環太平洋の生態系における重要な生態系および商業種である太平洋イワシ、カタクチイワシ、ニシンなどの飼料用魚の場合、メチル水銀の増加は、高排出の影響下で14%、低排出下で3%と予測されている。ここでも、この増加は、温暖な海に起因する食物の変化と食物網の形成の変化によって引き起こされる。
食物網における漁獲対象の低次化
大西洋タラの資源は、前世紀にカナダの北東海岸で過剰に搾取された。太平洋北東部のチヌークサーモンも、捕食、生息地の喪失、海洋の温暖化、漁業などの自然要因と環境ストレスのために減少してきている。これらの圧力の組み合わせにより、太平洋サケはメチル水銀の生体内蓄積により影響を受けやすくなる。
ある種が乱獲されると、漁船団が対象を拡大して調整し、多くの場合、海洋食物網の漁獲対象が低次化する。カスケード効果により、残りの種の獲物と食物網の形成が変化し、頂点捕食者の残留性有機汚染物質やメチル水銀などの有機汚染物質の移動を変える可能性がある。
魚が食物網から取り除かれると、より大きな魚と頂点捕食者は、通常よりも多くの、または異なる獲物、またはより小さな魚を食べることを余儀なくされる可能性がある。これらの魚は水銀で極めて汚染されている可能性がある。
気候変動と乱獲の組み合わせにより、海洋の魚の形成とそれらが見つかる場所がさらに変化している。また、これらの種が汚染物質にさらされる方法は他にもあり、人間がよく食べる魚である大西洋のタラと大西洋のクロマグロのメチル水銀のレベるが上がっている。
健康と地球を守る
この証拠に基づいて、公衆衛生コミュニティは、水銀にさらされる可能性が最も高い人々(沿岸コミュニティ)または悪影響(妊娠中の女性、乳児、子供)を経験する人々のための魚消費ガイドラインを再検討し改訂する必要がある。
私たちのシミュレーションは、飼料用魚とチヌークサーモンの予測されるメチル水銀濃度が、今世紀のカナダの水銀消費制限および世界保健機関が発行した消費勧告レベルを超えることを示している。
人間が支配する世界では、持続可能な漁業による水産物を消費し、海洋汚染を減らす努力をすることが不可欠である。海洋、海洋資源、漁業を保護し、持続可能な形で使用するための国連持続可能な開発目標(SDG 14)やパリ気候協定などの国際的および国内の環境政策は、海洋種を保護し、次世代のために青い惑星を守ることができる。