William Cheung (ネレウスディレクター・科学/UBC)とThomas Frölicher(ベルン大学)が、9月25日に第51回気候変動に関する政府間パネル(IPCC)セッションで承認された、気候変動における海洋と寒冷圏に関する特別報告書(SROCC)を共著した。政策決定者向けの要約(SPM)は、「観測された変化と影響」、「予測された変化とリスク」、「海洋と寒冷圏の変化への対応の実施」の3つの主要セクションで構成される。レポート内の調査結果は、非常に低い信頼度から非常に高い信頼度の証拠と合意、可能性(例えば、非常に稀なものから確実性の高いものまで)に基づいて評価される。以下、レポート内の主要な調査結果:
観測された物理的変化
- 氷床と氷河は、主にグリーンランド氷床と南極氷床で大量に失われ、海面上昇の加速につながる(非常に高い信頼性)。
- 北極海の氷は、1978年から2018年までの毎月減少している可能性が非常に高く、今後数十年ごとに9月の海氷の減少が続く可能性が非常に高い。
- 「1970年以降、世界中の海洋の温暖化が弱まりを見せず、気候システムの過剰な熱の90%以上を吸収していることはほぼ確実である(高い信頼性)。
- 海洋の熱波は世界的に増加し、より強力で、広範囲に、より長く持続する。
- 「1980年代以降の人為的 CO2 総排出量の20〜30%(可能性が高い)」を吸収するため、海洋の酸性化が続く。
- 海洋生物は両極に向かってさらに移動している。
予測される物理的変化
- 地表温の上昇(高い信頼性)により「地球規模の氷河の質量損失、永久凍土の融解、積雪と北極圏海氷の減少は今後(2031-2050)も続くと予測され、河川流出と局地的な危険は避けられないであろう(高い信頼性)。
- すべての排出シナリオにおいて、氷河からの年間および夏季の平均流出量は、21世紀末までにピークに達すると予測される。
- 21世紀の間中、海洋の温暖化が続くことはほぼ確実である。
- 炭素隔離のために海洋酸性化が続くことはほぼ確実である。
予測される物理的変化(続き)
- 海洋熱波は、頻度、継続期間、範囲、強度(最高気温)がさらに増すと予測されている(非常に高い信頼性)。
- エルニーニョとラニーニャの事象は今世紀中に頻度がおそらく増加する。
- 世界の海洋バイオマスは減少し、漁獲量と生産性に影響を与え、種組成はすべての海洋深度で変化し続ける。
- 沿岸域の生態系(例:海草の牧草地、塩性湿地、マングローブ、サンゴ礁など)は全てにおいてさらなる損失の危険にさらされる。
- 低地の沿岸地域の人間コミュニティは、海面上昇、海洋の温暖化と酸性化、北極海の海氷損失により、特に危険にさらされており、一部の小さな島国が居住不可能になる可能性がある。
海洋と寒冷圏の変化への対応の実施
- 曝露、脆弱性が最も高いのは、往々にして対応する能力が最も低い人々である。(高い信頼性)
- ガバナンス上の取り決めが分裂しており、気候変動によるリスクの増加への対応が困難である。
- 気候変動への対応を実施するための財政的、技術的、制度的障壁があり、それが「レジリアンスの構築とリスク軽減手段」を妨げている。
- 生態系管理ツールは、「コミュニティが支援し、科学に基づく一方で、地元民や先住民の知識も使用し、非気候ストレス要因の削減や除去などの長期的なサポートがあり、温暖化レベルが最も低い条件下において、最も成功する(高い信頼性)」。
結論として、著者らは、「気候のレジリアンスと持続可能な開発を可能にすることは、協調的で持続的で大がかりな適応行動と組み合わされた、緊急かつ意欲的な排出削減により決まる」こと、また「空間規模および計画期間全体にわたる政府当局間の協力と調整」の必要性があること強調している。そして、気候変動の教育、リテラシー、および「利用可能なすべての知識ソースの使用、データ、情報と知識の共有、金融、社会的脆弱性と公平性の取り組みや制度的支援への対応」を改善することが不可欠であると付け加えている。
Reference:
IPCC, 2019: Summary for Policymakers. In: IPCC Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate [H.O. Pörtner, D.C. Roberts, V. Masson-Delmotte, P. Zhai, M. Tignor, E. Poloczanska, K. Mintenbeck, M. Nicolai, A. Okem, J. Petzold, B. Rama, N. Weyer (eds.)]. In press.