2013-2014年に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC) の第5次評価報告書では、気候変動と海の酸性化に対する海洋システムの脆弱性、影響、順応を強調していた。この研究分野は常に進展が見られ、この報告書が公表された後、“Observed and projected impacts of climate change on marine fisheries, aquaculture, coastal tourism, and human health: an update” が最新レビュー論文としてこのほど発表された。

Lauren WeatherdonChanging Ocean Research Unit/ネレウス共同研究)、 William Cheung(ネレウスディレクター・科学)、Rashid Sumaila(リサーチアソシエイト・客員)によるこの新しい論文が、Frontiers in Marine Scienceに掲載された。彼らはその中で、新たに発表された論文をまとめたレビュー研究でも、政府間パネル(IPCC) が出した気候変動に関する鍵となる結論が支持されており、IPCCの信頼度をさらにあげ理解を深めるために、気候変動による影響についての新しい証拠を提示していると評した。調査結果から、概して熱帯地方が一番影響を受けるということ、淡水養殖が重要な食糧資源になる可能性はあるが持続可能性が不確かであるということ、そして、気候変動が海に関係する観光業に影響をもたらし、観光事業は小さな島々や開発途上国から離れ、高緯度地域へと場所を移していくとした(「勝者」と「敗者」を生み出す)。

要約:

気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第5次評価報告書 (AR5) では、気候変動や海の酸性化によりごく最近の過去と比較して、かつてないほどの割合で海は変化しており、海洋生態系、海に関連する商品やサービス、人間社会に多面的影響を及ぼしていると報告されている。また、海での相乗的変化がどのように人間社会のシステムに影響しそうか、人間がこれらの出来事にどのように対応できるかについて、課題となる残された重要な不確実性が強調されている。第5次評価報告書の後、急速に気候変動に関する研究調査が進められてきているので、最新の知識を統合するためには、出てきた証拠を証明して政策議論に情報を提供する必要がある。この論文では、第5次評価報告書の締め切り後に出版された、新しい調査結果の文献をまとめている。

特に、気候変動によって誘発された海の変化による、漁業、養殖、観光を含む重要な社会経済セクターへ及ぶ影響についての科学的発展に着目した。生態系範囲が移行し一次生産が変化することにより、沿岸海洋社会生態学的なシステムで、気候により引き起こされる利益と損失の再分布が新しい証拠により示された。生態系に基づいた適応に関連付けて、気候変動下での生態系サービスを特徴付け、評価する新たな取り組みがなされている。最近の研究では、気候動因間での相互的相乗作用も調査されており、異なるライフステージでの種への影響に強い変異性が見られている。気候変動が、廃れた漁場において適応するための代替の好条件をもたらす可能性はあり、例えば淡水養殖などの状況は改善するかもしれない。しかし、海の酸性化により甲殻類漁業や養殖業が危険にさらされることも否めない。

温暖化する海での病気の発生と流行増加のリスクは不確実であり、人間の健康に害をもたらすかもしれない。また、気候変動により観光客の流動にも変化は引き起こされるかもしれない。相当な地理空間的移行が考えられるため、観光業の収益や沿岸インフラの保護や整備に関する経済経費や利益の面においても大きく変動するだろう。生態系に基づいた沿岸適応アプローチは提案され続けているので、リスクを評価して、沿岸開発計画を促進し、意思決定支援システムを構築するために、重要な生態系サービスや沿岸コミュニティーの価値をさらに理解することが必要とされる。

REQUEST ARTICLE

この論文には、気候変動による海洋漁業、養殖、沿岸域の観光業、人間の健康への影響についての最新の見解(研究成果)が集約されている。