人間の経済活動により漁業の持続可能性が脅かされている。IUU漁業(違法、無報告、無規制)による乱獲が、その主要な要因として挙げられる。ネレウスの共同研究グループであるSea Around Usの最近の研究よると、世界の漁獲量の3割が未報告であることがわかった。
しかし、IUU漁業と気候変動の関係性については新たな議題となる。私は、気候変動による漁業への影響が間接的に作用して、IUU漁業が増加するかもしれないと推測している。
気候変動による影響は、誰がどの魚を獲るのかということにまで及ぶのか。
温室効果ガス濃度の高まりにより、海洋温暖化、酸素レベルの低下、海の酸性化を招いている。海の酸性化とは、CO2を吸収することによって海洋の水素イオン指数が減少することである。つまり酸性化した海では殻の生成が妨げられ、牡蠣やハマグリなどの貝類、珊瑚のような石灰化生物に影響を及ぼすことになる。
海洋温暖化に伴って、魚資源は、10年ごとに両極へ、または深海へ向かって10キロ移動していっている。世界的に見て将来の漁獲量は、熱帯域では大幅に減少、さらにはこれまでの30%まで落ち込む海域もあるのだが、そのかわり高緯度地域に魚資源が再配分されることが予測されている。熱帯域は漁業に負うところが大きく、魚資源の枯渇にすぐさま打撃を受けるコミュニティーである。伝統的に漁を営んできた魚資源が、もしも気候変動により減少したら、漁師たちは漁場を変えるか、損失を埋め合わせるために代替の漁業を模索しなければならない。魚資源の分布が変化することによって、混獲規定数量や排他的経済水域の内外に存在する魚資源の2ヶ国間/多国間協定といった、現行の漁業管理が弱体化するかもしれない。さらに、魚資源が新しい生息地へ移動すると、例えば北極のように管理や報告の枠組みがまだなされていない新しい漁業にとっては絶好の機会となるかもしれない。また、気候変動により移住せざるを得ない状況になったり、沿岸漁業では資源の減少に直面したりと、脆弱なコミュニティーに影響を及ぼすかもしれない。これらすべての要因が作用し、IUU漁業が増発することが予想され、その状況を打破する手段はより複雑になるだろう。
第9回 IUU漁業に関する国際フォーラム( International Forum on Illegal, Unreported and Unregulated Fishing)
漁業の持続可能性を確実なものにする打開策を開発するには、気候変動、人間の経済活動、IUU漁業の相互接続をはかる統合マルチスケールによるアプローチが必要である。2月16日、17日の両日、 第9回International Forum on Illegal, Unreported and Unregulated Fishingが、ロンドンのRoyal Institute of International Affairsで開催された。私は、気候変動による漁業への影響やIUU漁業への関連についての講演をするために訪れ、討論会にも参加した。
このフォーラムは、学者、政治家、司法当局、市民団体、資金提供機関、法人が招かれ、 IUU漁業について討論した。参加した討論会では、最近の IUU漁業の規模、国連の持続可能な開発目標の文脈におけるIUU漁業について、また予想される気候変動の影響や国際社会での優先事項などについて話し合った。国際取引規制、新しい技術やデータの役割、 IUU 漁業と他の犯罪の関係性、EUの規制、IUU 漁業問題への取り組みに対する国際社会の反応をいかにうまく調整するかなど、IUU漁業の他局面についてはその後の討論会で議論された。
Hon. Sherry Ayittey(ガーナ共和国、漁業養殖開発大臣)は、基調講演の中で、漁業を取り巻く多次元からの圧迫に取り組む際の課題を提起した。2012年に発表した、Vicky Lam、Rashid Sumaila、Wilf Swartzと共著した研究では、ガーナを含む西アフリカでの漁業は、気候変動に非常に脆弱であることを示した。
このフォーラムは、海の持続可能性における問題の複雑さ、そして多分野にまたがり国際的努力がなされることの必要性を例証した。これは、まさにネレウスプログラムの理念として推し進めているアプローチである。
WILLIAM CHEUNG, PHD, ECOLOGY, DIRECTOR (SCIENCE), UBC
2014年よりNF-UBC ネレウスプログラムのディレクター(科学)、研究責任者。UBC准教授。彼の主な研究分野は、気候変動による、漁業、海洋生態系、海洋資源および海洋事業への影響の調査や、漁業管理でのトレードオフを調和する方法について。