Thomas Frölicher (研究責任者/University of Bern) が共著した新しい研究“Is deoxygenation detectable before warming in the thermocline?(温暖化より先に水温躍層で脱酸素の検出が可能か?”がオープンアクセスジャーナルBiogeosciencesに掲載された。人為的な気候変動の最も顕著な指標には、海洋の温暖化と酸素の枯渇がある。しかし、世界の海洋温度躍層のさまざまな領域(温度勾配)では、反対のことが起こっていること、または温暖化より先に酸素欠乏が検出されていることを示している。したがって、著者らは「結合モデル相互比較プロジェクトの第5フェーズからの[9]地球システムモデルシミュレーションのアンサンブル」を使用して、人為的な海洋温暖化に先立って酸素枯渇を検出できるかどうかを判断し、それが世界の海洋温度躍層の約3分の1(〜35%)に当てはまることがわかった。詳細については以下要旨。
要旨
人為的な温室効果ガスの排出は、海洋生物や生態系に悪影響を及ぼし、海洋の温暖化と酸素欠乏を引き起こす。温暖化は人為的な気候変動の主要な指標の一つであるが、水温躍層の中には、温暖化より先に自然変動の境界から酸素やその他の生物地球化学トレーサーの変化が現れる可能性がある。 ここでは、結合モデル相互比較プロジェクトの第5フェーズから地球システムモデルシミュレーションのアンサンブル内の水温躍層温度と水温躍層酸素における、人為的変化の出現時期(ToE)を査定する。温度の変化は通常、酸素が変化する前に、内部の変動から現れる。ただし、世界の水温躍層の約3分の1(35±11%)で、脱酸素が温暖化に先立って発生する。これらの地域では、換気の低下と溶解度の低下の両方が酸素の減少を増大させる。加えて、換気の低下は、表面から海洋内部への人為的な温暖化の伝播を遅らせ、脱酸素化と比較して温暖化の発生を遅らせる一因となっている。ToEを決定する内部変動性と人為的変化の大きさはモデル間でかなり異なり、ToEのモデル間差異につながっている。ToEのマルチモデル評価を容易にするために、新しい測定基準である相対ToEを導入する。これにより、従来から評価されている絶対ToEと比較して、モデル間の広がりが減少する。私たちが出した結果は、海洋生物地球化学観測システムの重要性と、人為的影響の検出がマルチトレーサー観測を使用する場合により可能になることを強調している。
Reference
Hameau, A., Frölicher, T. L., Mignot, J., and Joos, F.: Is deoxygenation detectable before warming in the thermocline?, Biogeosciences, 17, 1877–1895, https://doi.org/10.5194/bg-17-1877-2020, 2020.