Written by Nereus Fellow Robert Blasiak

Photo: “Alvinella pompejana” by Kanijoman

「海洋遺伝資源」についての説明を求められた時、私は、質問者にしばしの間科学や専門用語を忘れて代わりにあるストーリーを聞いてもらうことにしている。私が好きなストーリーの登場人物は普通ではない。毛の生えた小さな5インチのミミズ、破滅したポンペイ、世界最大の化学会社とスキンクリーム。これで何が起きるのか。

熱水噴出口は、1976年スクリプス海洋学研究所の科学者たちによって発見された。海面から2500メートル下の、おおよそ生命が存在などしないであろう場所での画期的な生命の発見。この深さまで太陽光は浸透しないのだが、自己完結型の生態系がここに出現する。食物連鎖の最下位には、噴出口から吹き出すミネラルや化学化合物で生存できるよう進化してきたバクテリアや古細菌が位置する。この発見により、深海をさらに解明、探求できるようになった。さらに、わずか4年後の1980年に驚きの発見があった。コスタリカ海岸の熱水噴出口で、105℃にも及ぶ高温の噴出口に尾が挟まったまま生息する5インチのワームが発見された。この温度は、複雑な生命体には致命的であるとそれまでは考えられていた。

 

科学者たちは、このワームにぴったりの名を付けた。Alvinella pompejana(ポンペイワーム)。Alvinellaは、発見者であるAlvin submersibleにちなんで付けられ、pompejanaは、1900年前のヴェスヴィオ火山の噴火で覆われた古代ローマの都市ポンペイにちなんでいる。略してポンペイワームと呼ばれている。

ポンペイワームがどうやってその環境で生き残るのかまだ正確に解明されてはいないが、おそらくワームの全長を覆うけば状の細菌コロニーに関連している。この細菌と宿主間には共生関係がある種の形態が存在する。

そのような状況で生き残れる極限細菌の遺伝学は特に興味深い。研究者だけでなく、商業的観点からも興味深い。抗がん剤、鎮痛剤、合成するバイオ燃料としての用途などである。

しかし、科学的発見、価値のある遺伝子材料の特定、医薬品の開発または他の有益な製品との関連を作り上げているのは誰なのか。そのプロセスには、多額の金がかかり、商品化のタイムラインは不確実である。(そして臨床用途のためには数十年かかるかもしれない。)同時に、バイオテクノロジー研究は、膨大な配当を有する可能性がある研究フロンティアである。

最近発表した研究で、商業的関心が集まる海洋種は何か、これらの種のいくつの遺伝子配列が特許に関連しているのか、この特許を登録しているのは誰か、これらの事業体はどこにあるのか、など基本的な質問に答えることを試みた。

このために、私たちは特許に関連した遺伝子配列の3800万件以上を収​​集した。私たちが構築したデータベースの中に、862種の海洋種、さらにこれらの種から12998の配列を発見した。これらは、海洋微生物やマッコウクジラやマンタレイのような象徴的な種など、非常に多様であった。

私たちが本当に驚いたのは、これらの特許配列を誰が登録しているのかを探った時だった。ある多国籍企業が、特許配列の47%を登録していたのだ。それは他の220社を合わせた数以上であった。これが世界最大の化学会社がストーリーに登場する場面である。BASFは、10万人以上の雇用者と94カ国に点在する子会社のネットワークを持ち、毎年約20億ユーロを研究開発に投資している。

BASFの豊富な資源とイノベーションに焦点を当てることで、海洋遺伝資源を有用な商業的用途に変換する第一人者となった。しかし、この支配力は、公正さの問題を提起する。海洋の約3分の2が国の管轄権を超えて存在する。要するに、全ての人のものであり、誰のものでもない。政府は、企業にこれらの分野の海洋遺伝資源利用による利益を配分させるべきなのか?当然のことながら、不確実な商業化プロセスにすでに膨大な資金を投入している企業不は不満を抱くだろう。その結果、ただ単に革新的な研究開発のレベルを下げるだけなのだろうか?最善の意図が悪い結果を招く可能性もある。国の司法管轄内の搾取的な生物資源調査を排除するために2010年に名古屋議定書が採択されたが、 結局のところ、その影響は不確実でありなお論争が続く。

2018年9月、変化が訪れるかもしれない。国の管轄外の地域における生物多様性を扱う国際条約が国連で交渉される。その中心の問題の一つが海洋遺伝資源であるのだ。

交渉者には単純な解決策が残っておらず、行動が必要であることは承知の上だ。海洋は将来の持続可能な開発のための原動力との見方があり、海洋遺伝資源は問題解決への鍵である。私たちの研究では、わずか3か国に本部を置く団体が全海洋遺伝特許の74%を占めており、上位10カ国で98%を占める。165か国が完全に蚊帳の外である。このような統計は、持続可能な開発目標を含め、公正かつ包括的な開発に向けた世界の誓約と全く一致しない。

毛の生えた小さな5インチのミミズで始めた話なので、最後はこれで締めよう。企業の科学者たちはポンペイワームの遺伝子に何か有用なものを発見したのか?実はかなり発見されているのだ。ワームに毛羽を形成するバクテリアの遺伝子は、化粧品で使用されており、将来的に商業作物の収量を増加させるために使用されるかもしれない。また、作物収量の増加に関連して特許を登録したのは誰か?おそらくその答えは予想できているのではないだろうか。