Written by Nereus fellow, Robert Blasiak
タイミングが何より大事な時がある。各国の代表団は、国の管轄域外で生物多様性(BBNJ)を保全するための新しい条約の交渉をする目的で国連で会合を開いた。議題に上がった4つの問題の内の1つ:海洋遺伝子資源。様々な理由から交渉において困難なトピックである。とりわけバイオテクノロジー業界のイノベーションが驚くほどのスピードで進んでおり、しかも、海洋のおよそ3分の2を占める国の管轄を超えた地域に生息する生物の多様性に関して、解明されていない部分があるからである。これらは予測不可能で未知であるための知識のギャップである。
しかし、交渉担当者もまた、未回答の大きな一連の問題にぶつかっていた。どの海洋魚種が商業的価値のある遺伝子を持つのか?特許にはいくつの配列が表示されるのか?これらの特許を申請しているのはどの企業か?これらの特許は時間と共にどんな展開を見せてきたのか? 私たちは、交渉過程を公開するために、これらの質問に答えられること、また答えるべきであることを認識した。私たちの研究“Corporate control and global governance of marine genetic resources(海洋遺伝子資源の企業統制とグローバルガバナンス)”では、3800万の特許配列の記録を分析することで、答えを出すよう努めた。
Jennifer Jacquet (ニューヨーク大学)、Jeremy Jackson (Scripps Institution of Oceanography) は、ニューヨークで BBNJ交渉を行う代表者たちがニューヨークに到着したまさにその時に発行された“Science of the High Seas”の特別号に論文募集の記事を掲載した。彼らのイニシアチブにより、ネレウスの著者たちが、政策立案者に我々の科学を直接提供するとても良い機会となった。
この研究は、New York TimesのScience、Financial Times、 Scientific American、Popular Science、 Smithsonian、 Independent、その他で取り上げられた。
BBC4 Inside Science、 Radio Canada International、スウェーデンVetenskapsradionからラジオのインタビューも受けた。さらに、記事はスペイン語 (El Pais)、フランス語(Le Temps)、その他の言語で掲載された。思い返せば、このメディア報道において、ハイライトもあれば、フラストレーションもあった。
フラストレーション:1時間にも及ぶインタビューは、最終的にはわずかなパラグラフにまとめられ、必然的にそのニュアンスが失われた。メディア報道は、例外なく、特許に関して単一企業(およびいくつかの国)の覇権に焦点をおいた。私はこの覇権を批判するにはあまりにも単純化し過ぎていると主張を試みた。また不確実な商品化への取り組みに何億ドルの投資がなされることも示す。商品化に成功すれば、抗がん剤、作物収量の向上、環境に優しい工業用酵素が生まれ、企業の利益を生み出すことができる。しかし、これらの覇権国が資源や資産としても捉えられる可能性がある。すべての国の企業がこの業界に参加できるようにするためには、ほとんどの国で大規模な能力開発をする必要がある。成功したバイオテクノロジーの会社は、例えば、この能力開発に協力したり、国連交渉のために情報提供したりすることで、企業イメージを上げてきた。例外なく、こういった点に関しては、メディア報道からは最終的には除外されていた。
しかし確かに良い面もあった。私たちの研究は、交渉中の国連の議場や会議報告書の中で明確に引用された。科学と政策の連携が明確に示されることは稀であり、喜ばしいことである。もう一つ驚いたことは、多くのジャーナリストが「この研究について誰に話を聞けるか?」と尋ねてくることだった。そんな時、ニューヨークの国連会議でネレウスを代表して参加した研究員、Harriet Harden-Davies、Yoshitaka Ota、Marjo Vierros、 Daniel Dunn 、Guillermo Ortuño-Crespoを紹介できることは素晴らしかった。