公海は、国際水域とも呼ばれるが、世界の海の64%、地球の表面の45%を占めている。公海は世界で共有されているが、どの国にも統治されていない。これは、海藻から魚やサメまで、公海の素晴らしい生物多様性が保護されていない状況であるということだ。
過去2年に渡って国連総会が主催した準備委員会会議(PrepCom) シリーズ後、公海の海洋生態系を保護するための一歩が踏み出された。7月21日、公海の生物多様性に関する国際協定の草案の要素が合意に達した。次の段階で、その協定の交渉を始めるために、国連で政府間協議が招集される。
「PrepCom会議の目的は、法案をまとめ、国連に勧告を提出することであり、その意味ではこの会議の役割は果たされた。しかし、会議の内容に基づいたもので、どれだけ協定が強い力を持つのかという多くの疑問がいまだに残っている。まだどんな内容を盛り込むことも可能であり、関係者全員が納得する一般的な言い回しで構成されている。決定しなくてはならないことがたくさんあり、最終的な協定にはあまり強い取り締まり機能は期待できないかもしれない」とPrepCom会議に参加したDaniel Dunn(デューク大学/ネレウスプログラム研究責任者)は話す。
PrepCom会議中、今の所どの国々にとっても制限のない公海の海洋資源を、どのように利用し共有するのかについて、開発国と開発途上国間でかなり分裂した議論が持たれた。
「韓国、日本、スペインのような多くの外国漁船を持つ国々は協定にさえ、及び腰である。従来の漁法を圧迫すると考えるため、こういった国々は公海協定に対処したがらない。」
小さな漁業国は、公海での漁業能力を持たないかもしれないが、地元での漁業が公海での漁業に影響を受ける可能性がある。PrepCom会議では、管轄区域境界を越えた生態学的接続の概念に取り組み、多くの代表団、特に島嶼国からの代表者たちからの支持を受けた。
「ミクロネシアの海で見つかったマグロの集団が、国境を越えて公海に移動し、そこで乱獲されることを想像してほしい。ミクロネシアに経済的、社会的、生態学的影響を与えるだろう。開発途上国は公海で漁業をする国々に責任を負うことを求めるが、漁業国は責任を負いたくはない、これは両極に別れた議論の一つだ。」と PrepCom会議に参加したGuillermo Ortuño Crespo(デューク大学/ネレウスフェロー)は話す。
国連に送った環境影響評価のための勧告を含む提案の主な要素の一つは、人間活動がどのように公海で影響しているかの考察である。太平洋島嶼国のような国々は、公海の種やコミュニティーの国境を越えた評価を強く求めた。PrepCom会議では、どのように公海で海洋保護区を設定するか、データや研究の共有といったキャパシティ・ビルディングや技術移転等、海域管理ツールの問題も考察している。
またこれは魚だけの話ではない。海洋遺伝資源からの恩恵を受けている製薬会社からの反発もあった。医薬品、化粧品、サプリメントに使用されている海洋生物がこれらの資源に含まれる。公海はとても広大で未開なので、土地よりも海洋領域の方が有用な天然化合物が存在する可能性が高い。多くの開発途上国は海洋遺伝資源を「人間の共同遺産」と考え、抗がん剤が深海生物から開発されたら、利益が共有されるべきだと強く求めた。
ほとんどの国の代表団は、協定の条項を交渉するための政府間会議が来年始まることを望んでいるが、これらの交渉にはまだ数年はかかるだろう。現在、国連総会では、推し進めるための投票をし、予算を決定する必要があるが、それには2年かかるだろう。1973年に国連海洋法の交渉が始まったのだが、1994年まで承認されなかった歴史がある。
国家管轄権を超えた海域(ABNJ)シリーズは、PrepComの過程で情報提供のために作成された。
このシリーズには、以下8項目の政策概要が含まれた。