By Natasha Henschke, Nereus Fellow at Princeton University

柔らかくゼラチン質の体を持つクラゲは、一見無害の生物のように思われるかもしれないが、クラゲの大量発生は、人間の活動に有害な影響が引き起こすされる可能性がある。発電装置が目詰まりを起こしたり、養殖場の魚が大量死したり、魚網が破れたり、10トン漁船さえも沈めてしまったりする、様々な被害がすでに世界各地で起こっているのだ。そして、最近では、クラゲが、気候変動、または乱獲や富栄養化、沿岸開発のような人間活動により大量発生が引き起こされているとの分析が発表されている。

海が温暖化することにより、クラゲの成長度や繁殖率が上昇し、また乱獲によって競合生物も捕食動物も海から大幅に消えた。さらには沿岸開発によりクラゲを繁殖させる無性生殖であるポリプが定着する場所が生み出されるケースが増えている。十分なデータセットには及ばないため、クラゲのバイオマスが世界的に増加しているということを明言するのは科学者にとって難しいのだが、いろんな場所でその個体数が局地的に増加していることが観察されている。例えば、黄海や東シナ海では、巨大クラゲの種であるエチゼンクラゲが2002年から頻繁に大規模発生している。これは、おそらく乱獲、汚染、沿岸開発によるものであろう。

クラゲは、発生量が年によって大幅に変化するため、クラゲを漁獲するのは難しくなる可能性があり、新しい漁業整備に投資するのは困難である。 Image: “Jellyfish” by Eric Bauer, CC BY 2.0.

このクラゲの生物量の増加問題をどう処理するかが注目されてきている。1時間に900kgのクラゲのバイオマスを検出し、破壊することができるロボットを実際に開発している韓国人科学者さえいる。しかし、クラゲ繁殖への対処法としてそこまで強烈ではない代替案が見つかるかもしれない。

Lucas Brotz(Sea Around Us、ネレウスプログラム共同研究者)は、ICES Journal of Marine Scienceに掲載された新しい研究論文 “We should not assume that fishing jellyfish will solve our jellyfish problem”で、クラゲ漁がバイオマス抑制に役立つかどうかを論じている。

「私がよく受ける質問は、クラゲが問題になっているのなら、クラゲを食糧にすることはできないのかということだ。この論文では、もし私たちがクラゲを乱獲した場合に、その繁殖の危機を乗り越える事が出来るのかを論じている。」。2015年のクラゲ漁獲量は約1億トンで、その内「消費」がクラゲの一番の利用方法である。メキシコや南カリフォルニアでは、開発によりクラゲが繁殖し、その結果新しくクラゲ漁が操業されている。確かに豊富な資源を利用したくはなるだろうが、その一方では、クラゲ漁はクラゲの生物量を減らすという観点からは、常にコスト効率が良いわけではなく、ましてや環境的に健全な方法でもない。クラゲは、年によって発生量が大幅に変化するため、安定した漁を行う事は難しくなる可能性があり、そのため新しい漁業設備に投資するのはリスクが高い。クラゲ漁が発展しにくいもう一つの障壁は、400種のクラゲのうち食用として好ましいのは20種のみであり、実際に「消費」するものとして漁獲できるクラゲの量は減ってきている。食べられていないクラゲの種類は加工などにより食用にできるため、消費者に新種のクラゲの紹介を試みたこともあったが、その食感や質が消費者に好まれず、不成功に終わった。

「理論的には、多くの種のクラゲは食用にできるのだが、問題は「消費として好まれる」かどうかなのだ。パスタをアルデンテに茹で上げるように、塩とミョウバンで処理された後のぷりっとした食感の良さがクラゲに求められるためだ。」

クラゲはアジアのいつくかの国で食されている。 Image: “Jellyfish” by stu_spivack, CC BY-SA 2.0.

クラゲの漁獲は、短期間で見ると繁殖する生物量の管理の解決策である。クラゲは、そのライフサイクルが、水底に生息したり漂流する時期を含んでいるので、クラゲ漁はりんごの収穫と類似しているところがある。つまり、一本のりんごの木から全てのりんごをとっても、翌年にはまたりんごを実らせる。同様に、ある場所ですべてのクラゲを取り除くことができたとしても、底生生物のポリプの群生は健全で毎年クラゲの幼生を生み出し続けるのだ。実際に、クラゲ漁を減らす唯一の方法は、ポリプの群生を探し出し、除去することであるのだが、現段階では野生のポリプ群生を探し出すことに成功してはいない。

しかし、たとえポリプの群生を除去できたとしても、その結果としてどのような生態学的影響が生じるかは定かではない。そのことがクラゲの乱獲を避けるべき理由として挙げられる。ウミガメは、カリフォルニア沿岸で繁殖したクラゲを捕食するために、インドネシアからカリフォルニアまで2年間かけて1万キロの旅をしていることが分かっている。また近年、科学者たちは、海鳥は魚の群れがどこに位置しているのかを探すために、クラゲの大群を目標にしているということも指摘している。適切な管理計画を決定する前に我々がやるべきことは、他の海生生物に付随して起こる影響を軽減するために、海洋生態系におけるクラゲの役割に関する理解を深めることである。加えて、人為的要因がもたらすクラゲの反応が世界中で異なっており、クラゲの繁殖の管理はその時々の状況で変えていく必要がある。しかし、一旦海から陸に目を向けると、クラゲ漁の大規模化などの過激な管理活動が行われる以前でも、農地から流出する化学肥料を減らすことで、簡単且つコスト効率も良くクラゲの繁殖やその影響を減らすことができるかもしれない。


Natasha Henschke

NATASHA HENSCHKE, PHD, BIOLOGICAL OCEANOGRAPHY, PRINCETON
専門は海洋生物学。彼女の研究はクラゲの集合体がどのように海況の変化に反応しているかに焦点を当てる。人為的要因により、我々の海は魚中心からクラゲ中心の生態系に変わってきているが、最近の再調査では、クラゲの大量発生が世界中で増加しているという総意には至っていない。ネレウスでは、未来のクラゲの分布と量を調査するために、NOAA Geophysical Fluid Dynamics Laboratorで開発された地球システムモデルを利用してこの問題を研究することを目標としている。