近年、海の国際紛争における最も重要な課題であり、さらに論争が激しさを増す問題として、南シナ海での海洋領土を超える法的請求が挙げられる。 1982年制定の海洋法(UNCLOS)では、沿岸から海洋空間の200海里までの主権利と管轄権を付与する、排他的経済水域(EEZ)を請求する権利があるとしている。しかし、南シナ海では、海域内の南側に位置する小さな島や岩礁に対する一連の歴史的主張により、排他的経済水域の枠組みが複雑になっている。

中国は、権利主張を達成するため、いわゆる「九段線」と呼ばれる200マイルを越えて延びる大きな舌状の領域、サンゴ礁や島々の多くを含む南シナ海の90%以上の歴史上の主権をけんか腰に主張している。これに対し、この海域に隣接するフィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾もこれらの海域での権限を主張し、中国との対立構造があらわになった。

南シナ海で競合する領有権主張を示した地図

中国は、これらの領域の所有権を強化する目的で、サンゴ礁の周りに人工の島を建て、「島々」の周りに新たな排他的経済水域(EEZ)を生み出そうとしている。そのため、影響を受けやすい南シナ海の海洋生態系内に、中国が大規模な埋め立てプログラムを実施している事に対し、広範囲に渡る環境への懸念が持ち上がってきている。これらの水域での中国の軍事化が増していたり、伝統的漁業権を行使しようとするフィリピンの漁師への脅迫的主張により、地域的な広いセキュリティーコントロールが提案されている。

このますます複雑になる背景に対して、南シナ海内の法的権利の明確化と、また紛争中の暗礁やサンゴが「島」として法的資格が認められるかどうかの判決を求めて、2013年、フィリピンは中国に対しての仲裁のプロセスを開始した。ハーグ国際法廷は、中国が主張するこれらの水域での歴史上の権利主張を却下し、紛争地域内の陸形の多くが島の法的定義を満たせていないことを指摘、その上でフィリピンに有利な判決を下した。さらに、中国が許可なしにフィリピンの管轄海域内で漁業も行う一方で、特定の地域で非合法的に伝統的な漁業権の行使を妨げていたと判断した。裁判所は、中国の漁師が、中国当局容認のもとかなりの規模でウミガメ、サンゴ、巨大なハマグリなどの絶滅危惧種を漁獲していたこと、サンゴ礁の生態系に破壊的な行為を行っていたことを公開した。パネルは中国がUNCLOS の下、たくさんのサンゴ礁や島の周りを不正に開拓するプロジェクトを実施したことで、海洋環境に関する義務に違反したことを考察しており、生態系への「深刻かつ回復不能な損害」を引き起こしたと述べている。

 

南シナ海の価値

南シナ海は380万平方キロメートルで、世界の海洋においては比較的小さな領域だが、経済的、生物学的に非常に重要な意味を持つ。この地域は12カ国と地域に隣接しており、200万人の人々が居住し、世界で最も経済が成長している地域を組み込んでいる。また、世界でも5本の指に入る最も生産的な漁業ゾーンの一つであり、世界の漁獲量の12%を供給している。

南シナ海は、生物学的に多様であり、少なくとも3365に及ぶ海洋魚種の生息地として知られている。資源や生物多様性を豊かにすることを考慮すれば、この海は沿岸生活と地域経済のための重要な要素である。少なくとも370万人がこの地域での水産業に従事していると推定されるが、小規模および未報告漁の割合が高いことを考えると、実際の数字はさらに大きくなる可能性がある。加えて、最近の研究では、南シナ海と国境を接する多くの国々が、食糧源としての魚に最も依存しており、それゆえ微量栄養素の不足に脆弱であること示されている。

この地域での漁業と海洋生態系の状態

2015年のレポート”Boom or bust: The future of fish in the South China Sea”(いちかばちか:南シナ海での将来の漁業)では、1950年には、生息量が水準の5〜30%まで減ってしまう魚種が見られるなど、乱獲と生息地破壊がこの地域での重要問題となっている。十数年間の集中的な商業トロール漁業の使用(ボートの後ろでネットを引くことで様々な種の漁獲が得られる)と過去30年間の漁獲努力の増大により、これらの漁業の乱獲を導いている。その他の破滅的な漁法は、仲裁パネルに批判された行為、サンゴ礁でのダイナマイトやシアン化物の使用を含んでいた。これらの活動により、南シナ海のサンゴ礁は10年ごとに16%の割合で減少してきている。また、この幅広い生態系は、水産養殖業と沿岸開発による汚染の影響を受けている。加えて、この地域での海洋生物多様性や漁業は、気候変動や海洋酸性化による悪影響に非常に脆弱である。

この報告書は、漁業と気候変動に「特段の処置を取らなかった場合(business as usual)、2045年までに、研究対象となった種それぞれが、9〜59%減少するであろうことを述べている。最も懸念される事項として、ハタ、大きなサメ、イトヨリダイ科、大きな二べ科のような漁業の影響に脆弱な魚種は50%以上減少すると予測された。一方で、漁業努力をたった50−60%減らすことで南シナ海に囲まれた資源が回復するだろうことも予測されている。

Fiery Cross Reef -- an artificial island created by China in the South China Sea. Source: Wikimedia Commons.

The South China Sea is rich in resources and biodiversity, making it crucial for coastal livelihoods and local economies. Credit: "South China Sea, Sarawak" by Rod Waddington.