Written by Nereus Research Associate Colette Wabnitz with Jimena Eyzaguirre and Ravidya Burrowes (ESSA Technologies Ltd),
2011年、ホンダワラ類の海藻サルガッスムの大繁殖と集団座礁が始まった[1][2]。その年、海上でのサルガッスム(大きな茶色の海藻の一種)の繁殖は、過去8年間の平均の200倍となった[3]。開花期(春と夏)には、カリブ海に漂着した前代未聞の大量の海藻が、浜に高く積み上がって、海草藻場の生育に必要な太陽光を遮ってしまった。また、ウミガメに絡まり[4]、浅瀬で腐敗したサルガッスムは、ビーチで腐った卵ような悪臭を放った。2011年から毎年サルガッスムの大繁殖が起きているが、2015年はさらに大規模であった。2018年1月、サルガッスムの異常に大きな集合体がすでに衛星画像で発見されていた[5]。今年、前例のないほどの、期間、サイズ、そして地理的規模で繁殖し、フロリダ、メキシコ、ベリーズからバルバドス、キューバ、ケイマン諸島、小アンティル諸島、南フランス領ギニアに至るまで、700以上のビーチが汚れたことが報告され、観光客も失望した[6],[7]。この繁殖の規模があまりにも大きかったため、バルバドス政府はそれを国家の緊急事態[8]として扱うようになった。2011年から2017年のサルガッスムが占める面積は、平均で292km2であったが、2018年8月には、1,697 km2であった。その後10月まで、この地域は大量の海藻により悩まされ続けてきたが、全体的な繁殖の勢いは低下してきた[9]。予想では、12月までにほとんどの藻類マットが消散している可能性があると示唆する[10]。
海におけるサルガッスムー沿岸に漂着するサルガッスム
皮肉なことに、海では、大量のサルガッスムが多くの種にとって重要な生息地[11]である。サルガッスムが沿岸沿いに大量に繁殖した時に限り、多くの動物にとっての死の罠となり、重要な沿岸生息地の劣化の原因となる。サルガッスムは多種多様であるが、ここではSargassum natansおよびS. fluitansの2種類のみに注目する。海底に付着した段層とそれが表面に浮かぶ段層のある他のサルガッスムの種とは異なり、S. natansとS. fluitansどちらも外洋でしか見られない。沖合に浮遊している藻は、長さ数百キロ、深さ数メートルになる流れ藻となり、小エビ、蟹、ウミガメの孵化幼体[12]、海鳥[13]、イルカ、魚[14]、海洋鳥、その他の生き物など、さまざまな動物の避難所になったり、食料となる。このように生態学的に重要なため、米国では、サルガッスムはEssential Fish Habitatとして指定された。こういった指定をすることで特別な保護対象となる。しかし、海流や風が岸へと階層を動かすと、波の動きや荒れた海底により、普段はサルガッスムを浮遊させるガスが詰まった気泡が破裂してしまうので、藻が沈み始める。葉が分解すると藻が腐敗し始め、酸素が少ない環境を作り出す。密度の高い重量のあるマットの下、または中に閉じ込められた動物は逃げることも呼吸することもできず、最終的には死に至る。数メートルの高さにもなる腐敗した塊は、後に油膜を作り出し、悪臭を放つ。酸素不足により、観光客が楽しみ[15] 、地域社会が頼り[16]、生活の多様性を支える、サンゴ礁や海草藻場[17]などの沿岸の生息地に問題が生じる。海草やサンゴの両方が機能し成長するためには、日光が不可欠なのだが、サルガッスムが大量に蓄積し日陰を作り出すことがさらなる懸念事項である。
サルガッスムはどこから来るのか?
最近の研究では、当初の見解であった北大西洋のサルガッソー海から藻が流れているのではなく、赤道大西洋から生じていることが判明している。サルガッスムは、サルガッソー海でよく見られるため、その地域が海藻の主な産地だと考えられてきた。しかし、アマゾンの河口の北側、ブラジルと西アフリカの間にある、これまでサルガッスムの成長に関与しているとは考えられなかった北赤道再循環地域が、近年のサルガッスムの大規模繁殖の源であると衛星画像と海流情報が示している[18][19]。西部大西洋北部から南部サルガッソー海にわたる、サルガッスム上陸[20]のハインドキャストモデル、またサルガッスムの構成のネットサンプリングにより、サルガッスムがサルガッソー海から生じたのではないということが指摘されている[21]。Sargassum natans VIIIは、西部熱帯大西洋を東部カリブ海およびアンティル海流を、それとは対照的にS. natans I は、南サルガッソー海を占めている。正確な移送メカニズムは現在調査中だが、海流、風、その他の要因が藻類をカリブ海に運んでいる可能性があることは明らかだ[22]。
大規模繁殖の原因は?
考えられる原因として、栄養素、海水温の上昇[24]、サハラ砂漠の砂嵐など、さまざまな見解がある。衛星画像を分析し、浮遊藻類を検出するための数学モデル(Floating Algae Index (FAI)[23])を用いた結果、この地域でサルガッスムが大量に拡散しているのは近年であることがわかった。 2011年以前の衛星画像では、この地域には「海藻がほとんどない」。海水温の上昇により、藻の成長と増殖に有利な環境を作り出し、大繁殖の原因となっている。通常、藻類の生産性は、海洋水域では栄養分が限られている[25]。農業、貧弱な土地利用および下水処理によって、栄養素がアマゾン川やオリノコ川に流入したこと、それに風力の低下が相まって、サルガッスム大繁殖の原因になるという仮説が立てられている。この見解は、90年代のメキシコ湾の大規模なサルガッスムの蓄積は、ミシシッピ川[26]から放出されたより高い栄養素負荷に元をたどることができるという観察に部分的に関連している。サハラ地域から吹き込まれた粉塵により鉄の沈着量の増加した。これは海洋で植物の成長をしばしば抑制する要素であるのだが、この鉄の沈着が、繁殖の始まりと急速な繁殖の別の原因として考えられている。
2018年のサルガッスム大繁殖、および大量の褐藻類の沿岸浸食に関連する問題事象が深刻であるというニュース報道は広範囲に及んだ。衛星画像やモデル化された表面流を使用し、研究者たちは浮遊藻類を追跡し、漂着事象を予測する[27],[28]。このようなシステムにより、地域住人や政策決定者はより対処しやすくなる。近年のサルガッスムの大規模繁殖の引き金になったことの重要性や貢献を特定するためにさらなる研究が必要とされる。そのためには、衛星による連続して一貫した観測[29] と、風や海流のパターンのモデル、そして気候変動による海域の主な変化(気温、pH、栄養素のダイナミクスなど)を組み合わせる必要がある。
できることは?
大繁殖から生じる大量の藻の蓄積に対処するためにいくつかの戦略が提案されている。藻が浜辺に漂着したらすぐに除去することが広く推奨されている[30]。効果的ではあるが、その方法はウミガメの営巣地の破壊や海辺の侵食につながる。また、まだ藻が海上にある時に除去するための取り組みも試験的に行われている。例えば、石油流出封じ込めの大規模なシステム、またはボートに藻類を積み込むコンベアベルトシステムがある[31]。また、合板[32]、マルチ[33]、および肥料[34]に使用するなど、藻類を工夫して利用することも推奨している。サルッガスムから抽出した化学物質が医薬品や日用品、魚の餌や燃料として利用をされる可能性もある。
革新的で予防的なアプローチを促すために、資金調達の取り組みも最近明らかになっている。例えば、アンティグア環境局は、海でサルッガスムを収集するための実行可能な選択肢を見つける調達プロセスをスタートさせた[35]。メキシコでは、27㎞のバリアソリューションを地域で成功させることに期待が寄せられている[36]。2018年6月、前フランス環境大臣は、グアドループ島[37]での問題解決を支援するために1000万ユーロを計上する計画を提示した。2018年9月には、米州開発銀行は、集団座礁の問題解決に向け、クリエイティブな解決法を研究するためにBlue-Tech Challenge Programmeを立ち上げた[38]。
将来は、統合管理アプローチがこのような事態への適応に役立つはずである。予測モデルを継続的に改善することにより、各国はより効果的に対応し、タイムリーかつ適切な緩和戦略と管理計画を実施することが可能になるであろう。藻類の商品化によっていくらかの利益を引き出す一方で、効率的に、環境への害を最小限に抑えながらサルッガスムを除去するための革新的な解決策に助けられるだろう。研究開発を推進するにはさらなる努力が不可欠であり、カリブ海諸国は今後の対応を調整すべきである。
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