Colin Thackray(ネレウスリサーチフェロー/ハーバード大学)、Elsie Sunderland (研究責任者/ハーバード大学)が、他の研究者らと共著した論文Nature誌に掲載された。彼らの研究では、気候変動と乱獲が海洋の捕食者の組織における神経毒メチル水銀(MeHg)の生物蓄積に及ぼす影響を調査する。このMeHgは、環境に蓄積する。すると海洋食物網は、汚染された魚を消費する人々への長期的な神経認知の影響を及ぼすため、水産物を栄養摂取の源として頼っている世界の人々の大部分に影響を与えることになる。著者らは、大西洋タラ (Gadus morhua)および大西洋クロマグロ(Thunnus thynnus)から、過去30〜40年間で、乱獲や海洋温度の上昇が水銀(MeHg) 濃度にどのように影響してきているか、海水温暖化と漁業管理が将来の水銀レベルの決定にどのように役立つのかを調査した。

要約:30億人以上が栄養源を水産物に頼っている。しかし、魚は、人間が強力な神経毒性物質メチル水銀 (MeHg)に晒される主な原因である。米国では、人口全体のMeHgへの曝露の82%は海洋水産物の消費によるものであり、生のマグロと缶詰のマグロだけでほぼ40%に及ぶ1。自然資源および人的資源から大気中に放出される無機水銀(Hg)の約80%は海洋に堆積し2、そこで微生物によってMeHgに変換されるものがある。捕食魚の中で、環境のMeHg濃度が100万倍以上に増幅される。MeHgの人間への曝露は、成人期まで持続する子供の長期的な神経認知障害に関連しており、全世界の社会に対するコストは200億USドルを超える。人為的起源のHg排出量の削減に関する最初の世界条約(水銀に関する水俣条約)は、2017年に発効された。しかし、人間が頻繁に消費する海洋捕食者(マグロ、タラ、メカジキなど)のMeHgの生物蓄積に対する海洋生態系の継続的な変化の影響は、グローバルな政策目標を設定する際には考慮されていない。

ここでは、乱獲により始まった食餌推移の結果として、大西洋タラ(Gadus morhua)のMeHg濃度が1970年代から2000年代にかけて最大23%増加したことを示すために、30年以上のデータと生態系モデリングを使用した。また、このモデルでは、1969年の低水位と最近のピークレベルとの間の海水温度の上昇により、大西洋クロマグロ(Thunnus thynnus)の組織中のMeHg濃度が推定56%増加すると予測している。これは、2017年の観測と一致している。組織MeHgのこの推定増加値は、海水MeHg濃度の低下の結果として1990年代後半および2000年代に達成されモデル化された22%の削減を超えている。最近報告された世界的な人為的Hg排出量のプラトーは、海洋温暖化と漁業管理プログラムが海洋捕食者の将来のMeHg濃度の主要な原因になることを示唆している。

 

参照:

Schartup, A.T., Thackray, C.P., Qureshi, A., Dassuncao, C., Gillespie, K., Hanke, A. & Sunderland, E.M. (2019). Climate change and overfishing increase neurotoxicant in marine predators. Nature, 2019. DOI: 10.1038/s41586-019-1468-9 link